―偶然


偶然の話が大好きだ。特に些細な偶然の話がどんどん大きくなっていく話はたまらない。これに僕の思う「ヒロイズム」がリンクする、という構図でどんな話でも書ける。


というわけで偶然性の話を紹介。


1950年代、アメリカ中西部。ある婦人が帰宅すると鍵をなくしていた。当然彼女はうろたえる。仕方なく窓ガラスを割ってはいろうとしたが、そうする前に、郵便配達人が来た。彼は手紙を持っていた。その手紙は彼女の弟からの手紙だった。彼女は手紙を開いた。手紙には先月に、弟が訪れていたことの礼が、丁寧に書かれてあって、最後にセロファンテープで彼女の家の鍵が止められてあった。


彼女は弟に鍵を貸したことを忘れていたし、鍵を貸したのは先月のことだった。すくなくとも自分がなくした鍵ではない。偶然、自分が鍵を忘れた時に、弟から鍵が届いた。これは天文学的な確率の低さである。ありえない。


こんなことがありうるらしい。その事実だけで、この世界に驚嘆せざるを得ない。