―フォーラムレポート完成の定義

我々「産業における感性、音・デザイン」フォーラムは、感性という言葉を定義した。
定義は、「感性とは、ヒトが、感覚器で得た外界からの情報を、整理して、意味づけする過程」である。この定義を導く理由は二つある。それは、感性という言葉に「感性という言葉の曖昧さ」「感性の主観性」という問題点があるためである。
第一に、感性という言葉の定義が定まっていない。感性という言葉の定義はさまざまな文脈によって異なっている。実際に、原田(1998)は、様々な分野の研究者を対象に「感性」の定義について調査を実施し、キーワードを抽出してグルーピングを行っている。その結果、「感性」を主観的で説明不可能なイメージを創造する心のはたらき、直感的に反応する能力、先天的な性質と知識や経験による認知的表現、などといった言葉で定義している。また、意識と無意識、能動的感性と受動的感性、瞬間的判断スポーツにおける感動性や芸術性、といった感性のさまざまな側面を挙げている。(原田,2000)。
このように、定義や意味が異なっている。しかし、生産性の高い議論には定義が必要不可欠である。議論の参加者がコミュニケーションできないためである。そこで、感性という言葉の共通項を探した。結果、共通項は「外界からの情報を・・」処理することである。だが、どの段階までを処理するのか、という意味でずれがある。このずれが出る部分をすべて含むように、最後に、感性という言葉を定義した。
第二に、感性という言葉には主観的なニュアンスが含まれてしまう、という点がある。
この定義には認知科学的プロセスを反映させている。認知科学は認知の過程をモデルで表現する。脳は情報処理を行う臓器であるし、実際に聴く、視る過程では複雑な段階を経る。この過程は盛んに研究されているし、科学的に解明されるものである。
一方で、感性という言葉には主観的な意味合いが含まれる問題点もある。前述したように一般的な感性の意味には、感受性という意味もある。ものをとらえてどう感じるかは主観の世界である。感じた結果は個人によってことなるから科学的な解釈はできない可能性がある。
そこで、心理学ではスキーマという概念がある。スキーマとは「経験に基づいた記憶によって無意識の中に形作られている法則」のことである。感性の結果、表現されたものは科学的に捉えられないかもしれないが、スキーマの形成されるメカニズムは、人間の脳で処理される過程の一つである。そのため、普遍的なものである。つまり、科学的に解釈できる範囲のものである。
以上2点の「感性という言葉の曖昧さ」「感性の主観性」という問題点を解決し、その上で一般的な感性という言葉の意味解釈に適合するようにするために感性という言葉の定義を決定した。