―フォーラムレポート(考察)

前述したように我々は、三種類の図形で実験を行った。図()を参照せよ。
前提として、人は図形の特徴的な部分を注視すると考えた。たとえば、多角形の角、円形の中央部、である。
そこで我々が用意した仮説は以下の2点である。
第一仮説は、「人はある円形を見たとき、中央を注視する。」理由は、まず、円形には角がない。そこで、角は特徴的な部分であると我々は考えたから、円形には注視するべき部分がない。結果、我々はその中で中央部は目を引くだろうと考えた。このようにして第一仮説を導いた。
第二仮説は、人が多角形を見た場合、鋭角を注視する。というものである。まず、多角形には角がある。角は特徴的な部分だと我々は考えたので、角は注視されやすいだろう。という類推である。
この仮説にもとづいて実験を行った。

■実験結果
まず、実験結果からわかることは次の4点である。
第一に、図形上部の方が図形下部より回答率が高いこと。
第二に、多角形の場合、正答率の高い角は「鋭角のうちの一つの角」であること。
第三に、多角形の場合、ひとつの鋭角の正答率が「0」であること。
第四に、多角形の角度によって、同じ鋭角の正答率が変化すること。

■実験結果と仮説の関係
次に、実験結果が仮説を支持したかどうか考える。
まず、実験結果は、仮説1を支持しなかった。なぜならば、実験()の結果にあるとおり、円形で正答率が高い箇所は右上であるからである。
つぎに、実験結果は仮説2をある程度で支持した。これは、、「鋭角のうちのひとつの角」を注視しているという意味で、である。なぜならば、多角形で正答率が高い物は図形の「ひとつの」鋭角だったためである。ただし、すべての鋭角を平等に注視するわけではなく、ひとつの鋭角は注視されていない。

■実験結果から得た発見
その上で、仮説で考えたもの以外の結果を考える。
第一に、同じ多角形でも「図形の傾きによって正答率が異なる」という事実である。実験では同じ三角形を用いたが、結果は異なっている。
第二に、図形上部が下部より正答率が高い事実がある。これは円形、非円形を問わず、実験結果に現れている。

■考察A
このことから実験から考察すると以下の点が明らかとなった。
第一に、図形の下部より上部のほうが注視されやすい。
第二に、多角形の鋭角のうちのひとつは注視されやすい。
第三に、第二点で述べた鋭角以外の角は比較的注視されない。あるいはまったく注視されない。(図形の位置関係も重要な要素のひとつである。)
以上のことは実験結果から導き出せる事実である。

■眼球運動、注視と観察者の意図の関係
ここで、先人の実験結果を引用する。旧ソ連のヤルブスは、眼球運動と観察者の意図について調査を行っている。
この実験では、被験者を7つのグループに分けて、それぞれにある絵を見せて質問した。ただし、質問内容はグループごとに変えてある。その上で、質問後の眼球運動を調査した。(ヤルブス,1967)
結果、質問内容によって眼球運動は大きく変化している。結果から、2点導出できる。
第一に、「眼球運動、注視と観察者の意図は大きく連関している。」
第二に、「観察者が必要としている情報と、ある特徴から集められる情報の種類と量は、どの特徴にどれだけの注視時間が注がれたのか、何回見たのか、という量は直接関係している」という2点である。
このことからいえることは、「意識的、無意識的なものを含めて、観察者が必要としている情報と、眼球運動、注視は関連している」ということである。

■考察B
この実験結果を■考察Aに応用する。
被験者は、「図形の中のひらがなを見てください」と実験者から指示されている。ひらがなは文字である。被験者はみな日本人の学生だから、文字は「左上から右へ」、あるいは、「右上から下へ」、読む。文字は下から読まない。
そこで、第一の考察「図形下部より上部のほうが注視されやすい」ことの理由がわかる。それは、「文字は下から上へは読まないので、上の方が注視されやすかった」ということである。
次に、第二の考察について考える。多角形の結果を見ると、図形Bの方は左上の正答率が高い。一方、図形Cのほうは右上の正答率が高い。ここで、図形Bでは図形内の「ひらがなが左から右へ流れている」。前述したように日本人は文字を左上から右へ読む場合も多いため、図形Bでは左上の正答率が高くなっている、と考えられる。
結論を述べる。人が図形のどこを注視するか、単純に決まっているわけではない。ただし、どこを注視するかという問題は、まず図形の位置関係、そして、観察者がどんな情報を必要としているか、によって決まると考えられる。